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人口1,000人ほどの過疎の村「串原村」(岐阜県恵那郡)は、毎年11月3日になると村の人口が倍になる。理由は、年に1度の「全国ヘボの巣コンテスト」が開催されるからである。この日を目標に全国の蜂好きたちが丹精こめて育て上げた自慢の「ヘボの巣」を持ち寄り、その重量を競うのである。2001年で8回目を迎えるコンテストは秋の冷たい雨が降る中で行われたが、例年を上回る150箱近い巣箱が出品され、1,000人を超える観客が集まった。 |
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「ヘボ」とはクロスズメバチのことで、地域によって「地蜂」「タカブ」「スガレ」などとも呼ばれている。「ヘボ」の幼虫やさなぎは「蜂の子」と呼ばれ昔から、岐阜、愛知、長野、山梨などの山間部では貴重なタンパク源として食用にされてきた。現在でもこうした地方では毎年秋になると大きく育った「ヘボの巣」を探し出し、中にいる幼虫やさなぎを取り出し甘露煮にしてご飯に混ぜ込む「ヘボ飯」や、ヘボダレをぬった「ヘボ五平」を秋の風物詩として楽しんでいる。(ヘボの巣探しの詳しい内容は「地蜂追い」をご覧ください)
しかしながら年々荒廃する自然環境が原因となり「ヘボ」は著しく減少している。こうした事態に危機感を抱いた串原村は1993年に「くしはらヘボ愛好会」を発足させてヘボの保護・育成を開始した。「全国ヘボの巣コンテスト」はこうした保護・育成活動の一環として実施されているもので、秋に捕らえたヘボの女王蜂を越冬させ、翌春に山野に放ち、初夏にその巣を見つけ出して人工飼育で大きく育て、11月3日のコンテストで持ち寄った巣の重さ(大きさではなく重さを競うのは巣の中にいかに多くの蜂の子がいるかが重要なため)を競うである。 |
自慢の巣箱を軽四輪車に積み込み込んだ参加者たちが、村内はもちろん近隣の町や村から続々と集まってくる。個性的な巣箱はハチ好きたちが取り囲み、賞賛の声をあげる。 |
観客たちの一番のお目当ては、串原村のお母さんたちが手作りした「ヘボ五平」(300円)1,800本を用意したが、昼までの2時間で売り切れてしまった。 |
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「ヘボのカミサマ」と呼ばれる三宅尚巳会長が副会長、村長を従えて登場。ユーモアたっぷりの開会宣言がされ、コンテストが始まった。 |
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受付の済んだ巣箱は、係員によって煙幕が入れられる。 |
丹精込めた巣箱が一瞬にして壊され、巣が取り出される。 |
蜂の子がずっしり入った巣は、ビニール袋に入れられ、計量所に運ばれる。 |
計量所に持ち込まれた巣は、真剣な目で見守る出品者や観客の前で正確に計量される。 |
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計量が済んだヘボは希望者に販売される。今年は1kg当たり9,000円(去年は1万円)という高値にもかかわらず、販売された70余りのヘボの巣がすべて完売した。購入した人に話を聞くと「毎年楽しみにしているんだ。ヘボを食べないと正月がこない気がするよ。今夜は家族でヘボ飯だ」と足早に車へ向かった。 |
今年は、串原村の隣り町・明智町から参加した掘 年夫さん(73歳)が優勝の栄冠に輝いた。記録はコンテスト史上最高の6,010グラムだった。準優勝は明智町の西尾友宏さんで4,810グラム。 |
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堀さんはこの道40年の大ベテランで、第2回に優勝、第4回と第7回は準優勝しており、ヘボ愛好家たちから「名人」と呼ばれている。 |
表彰式の後、解体した巣を前に「名人流飼育方法」の一端を披露した。「餌はニワトリのササミとキモをミンチしたものを与える」「巣門は餌を抱えたハチが自由に出入りできるように大きめにする」といった話に、来年こそは優勝をというハチ好きたちが熱心に耳を傾けていた。 |

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